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プレスリリース

2014年9月17日 銀河衝突で作られる巨大ガス円盤—円盤銀河誕生の謎に電波で迫る

概要

アルマ望遠鏡をはじめとする電波望遠鏡による37の衝突銀河の観測により、銀河どうしが衝突した後に高い確率でガスの円盤構造を持つ銀河が作られることが初めて確かめられました。我々が住む天の川銀河のような円盤銀河の起源に迫る、重要な成果です。

国立天文台で研究を行う植田準子氏(日本学術振興会特別研究員)が率いる国際研究グループは、衝突の最終段階にある37個の銀河における分子ガスの分布を、世界中の電波望遠鏡の観測データを使って調査しました。分子ガスが放つ電波を検出できた30個の衝突銀河のうち、24個の衝突銀河において、分子ガスが円盤状に回転していることを突き止めました。しかもそのうちの半分は、銀河中心部の星の集合体よりも大きく広がったガス円盤を持っていることもわかりました。ガス円盤の中で将来的に多数の星が作られると、結果的にこれらの銀河は星とガスの円盤を持つ円盤銀河に進化していくと考えられます。

研究の背景

天の川銀河は約1000億個の星と大量のガス・塵が集まった天体で、渦巻の構造を持つ円盤が特徴的な銀河です。こうした円盤部を持つ銀河は「円盤銀河」(画像1・左)と呼ばれ、宇宙に存在する銀河の実に7割以上は円盤銀河であると考えられています。一方、宇宙には数千億個の星が楕円体状に集まった「楕円銀河」と呼ばれる銀河も存在しています(画像1・右)。

画像1
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画像1:円盤銀河と楕円銀河の例。すばる望遠鏡で撮影されたアンドロメダ銀河(左)は代表的な円盤銀河です。中央部に星が球状に密集した「バルジ」部とそれを取り巻く円盤部がよくわかります。一方、欧州南天天文台VLTで撮影されたNGC 1316銀河(右)は円盤構造の無い楕円銀河の一例です。
Credit: 上坂浩光/HSC Project/国立天文台/ESO

これらの形の異なる銀河はそれぞれどのようにして形成されたのでしょうか?銀河の進化を考えるうえで欠かせないのは、銀河どうしの衝突です。現在私たちのまわりにある銀河は、宇宙の歴史の中で周囲の銀河と衝突を繰り返して成長し、あるいは形を大きく変えながら現在に至っていると考えられています。しかし、銀河衝突の結果としてどのような形の銀河が作られるのかは、はっきりわかっていませんでした。

1970年代ごろから行われてきたシミュレーションによる研究では、同程度の質量をもつ銀河どうしが衝突すると楕円銀河が作られると予測されていました。実際、可視光による観測では長く伸びた星々の「尾」や「リング」を持つ楕円銀河も多く発見されており、これは銀河どうしの衝突の名残だと考えられています。このため、銀河衝突の結果として楕円銀河ができるという考え方は広く受け入れられていました。一方で最近のシミュレーションでは、同程度の質量をもつ銀河どうしの衝突によって楕円銀河だけでなく円盤銀河が作られる可能性があることも示されています。しかし、銀河衝突の結果として円盤銀河が作られるかどうかの観測的な証拠はありませんでした。

衝突銀河における分子ガスの分布カタログ

銀河衝突の結果どのような形の銀河が作られるのかを調べるために、植田準子氏(日本学術振興会特別研究員・国立天文台)が率いる国際研究グループは、衝突の最終段階にある銀河について、分子ガスがどのような分布をしているかを調べました。研究グループは衝突の最終段階にある銀河のカタログから37天体を選びました。そのうちの27天体について、アルマ望遠鏡、CARMA(注1)、SMA(注2)で一酸化炭素分子ガスの観測を行いました。さらに、アルマ望遠鏡とPdBI(注3)、SMAのデータアーカイブから10天体のデータを取得し、合計37天体について分子ガスの分布を調べました(注4)。これは、衝突末期段階にある銀河での分子ガスの分布を調べる研究としては、これまでで最も多数の銀河を調べた研究です。

その結果、37個の銀河のうち30天体で分子ガスからの電波が検出され、その分布を描き出すことに成功しました(画像2)。そして、30天体のうち実に8割に相当する24天体では、分子ガスが円盤状に分布していたのです。今回の研究で、少なくとも近傍の宇宙(約4000万〜6億光年)では銀河衝突によって分子ガス円盤が作られるということが明らかになりました。また電波のドップラー効果(注5)から、これらのガス円盤がそれぞれの銀河中心のまわりを回転していることもわかりました。さらに、分子ガスの円盤が見つかった24天体のうち11天体では、銀河の中心部に密集した星の集団(銀河のバルジに相当)よりも分子ガスの円盤の広がりのほうが大きくなっていました。中には、天の川銀河の円盤に匹敵する大きさのガス円盤を持つ銀河もありました。衝突の最終段階にある銀河に高い割合でガス円盤が存在することが観測で直接示されたのは、今回が初めてのことです。

画像2
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画像2:電波望遠鏡で観測した衝突銀河のガスの分布。等高線は一酸化炭素ガスが放つ電波の強度を表しています。またガスの動きによって色付けしており、赤色は私たちから遠ざかる方向に、青色は私たちに近づく方向にガスが動いていることを示しています。赤から青へのきれいなグラデーションが見えているということは、ガスが円盤状に銀河中心のまわりを回っていることがわかります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/SMA/CARMA/IRAM/J. Ueda et al./Wilson et al./Hunt et al./Jütte et al.


動画:2つの銀河の衝突から円盤を持つ銀河が作られる様子を模式的に表したCG映像。衝突した銀河は互いの重力によっていったん形が崩れ、やがて円盤構造を持つひとつの銀河ができる様子を表現しています。この映像ではふたつの円盤銀河が衝突する様子を描いていますが、実際に観測された衝突銀河では衝突前の銀河の形がどのようなものであったかはわかっていません。
字幕なし動画をダウンロード(182MB)
Credit: 国立天文台

研究チームを率いた植田氏は「こんなに多くの銀河でガス円盤が見つかるとは意外でした。大きなガス円盤の中で大量に星が生まれてくれば、天の川銀河のように円盤が卓越した銀河になると考えられます。今回の結果は、円盤銀河の誕生の謎に迫る大きな一歩です。今後は、ガス円盤から星の円盤に進化する過程に注目していきたいです。」と語っています。

さらに植田氏は研究成果について、次のように解説してくれました。「今回の結果は、宇宙における銀河の進化を考えるうえでも重要な意味を持ちます。近年の高感度観測により、遠方宇宙(約70億~110億光年)に存在する銀河は50~75%がガスの円盤構造を持つことがわかっています。こうした銀河の形成過程には諸説あり、銀河の衝突によるものという説と、銀河に冷たいガスが降り積もってきて円盤が作られるという2つの説が考えられています。もし今回観測で得られたものと同様の現象が遠方の宇宙でも起こっていたとすると、遠方の宇宙に存在する円盤銀河の構造は、大昔に経験した銀河衝突によって形成されたものかもしれません。この研究は、近傍の宇宙だけでなく遠方の宇宙における銀河の形成を理解する上でも重要な意義があります。」

[1] Combined Array for Research in Millimeter-wave Astronomy:米国カリフォルニア州にある23台のパラボラアンテナからなるミリ波干渉計で、カリフォルニア工科大学など米国の5つの大学が共同で運用している。

[2] Submillimeter Array:米国ハワイ島マウナケアにある、8台のパラボラアンテナからなるサブミリ波干渉計。米国ハーバード・スミソニアン天体物理学センターと台湾・中央研究院天文及天文物理研究所が共同で運用している。

[3] Plateau de Bure Interferometer:フランス・ビュール高原にある、6台の直径15mアンテナからなるミリ波干渉計。フランス・ドイツ・スペインが共同で設立したミリ波天文学研究所IRAMが運用している。

[4] 最終的に使用したデータは、アルマ望遠鏡によるもの21天体(当研究チームにより今回実施された観測で20天体、データアーカイブから1天体)、CARMAによるもの2天体(いずれも当研究チームによるもの)、SMAによるもの12天体(当研究チームによる観測5天体、データアーカイブから7天体)、PdBIによるもの2天体(いずれもデータアーカイブから)です。またこれに加えて、国立天文台野辺山45m望遠鏡、米国立電波天文台12m望遠鏡、米国五大学電波天文台14m電波望遠鏡、IRAM 30m電波望遠鏡、スウェーデン・ESOサブミリ波望遠鏡による観測データも今回の研究に使用されました。

[5] 救急車が近づいてくるときはサイレンの音が高く、遠ざかっていくときはサイレンの音が低く聞こえます。これをドップラー効果と呼び、音源が観測者に対して移動している際に起きる現象です。同じことは電波でも起きます。電波を発する物質が私たちから遠ざかっているときには電波の波長が長くなり、近づいているときには波長が短くなります。

論文・研究チーム

この観測結果は、Ueda et al. "COLD MOLECULAR GAS IN MERGER REMNANTS. I. FORMATION OF MOLECULAR GAS DISKS" として、2014年8月発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント」に掲載されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。

  • 植田準子(日本学術振興会/国立天文台)
  • 伊王野大介(国立天文台/総合研究大学院大学)
  • Min S. Yun(マサチューセッツ大学)
  • Alison F. Crocker(トレド大学)
  • Desika Narayanan(ハーバーフォード大学)
  • 小麦真也(工学院大学/国立天文台)
  • Daniel Espada(国立天文台/総合研究大学院大学/合同アルマ観測所)
  • 廿日出文洋(国立天文台)
  • 金子紘之(筑波大学)
  • 田村陽一(東京大学)
  • David J. Wilner(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)
  • 川辺良平(国立天文台/総合研究大学院大学/東京大学)
  • Hsi-An Pan(北海道大学/総合研究大学院大学/国立天文台)

この研究は、日本学術振興会特別研究員経費と科学研究費補助金(25800116)、全米科学財団による研究費(AST-144560)による支援を受けています。

この研究に用いられた電波望遠鏡のデータは、こちらのウェブページ(英語のみ)で公開しています。

アルマ望遠鏡について

アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
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アルマ望遠鏡山頂施設 (AOS)空撮
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)は、ヨーロッパ、東アジア、北米がチリ共和国と協力して建設する国際天文施設である。ALMAの建設費は、ヨーロッパではヨーロッパ南天天文台(ESO)によって、東アジアでは日本自然科学研究機構(NINS)およびその協力機関である台湾中央研究院(AS)によって、北米では米国国立科学財団(NSF)ならびにその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院国家科学委員会(NSC)によって分担される。ALMAの建設と運用は、ヨーロッパを代表するESO、東アジアを代表する日本国立天文台(NAOJ)、北米を代表する米国国立電波天文台(NRAO)が実施する(NRAOは米国北東部大学連合(AUI)によって管理される)。合同ALMA観測所(JAO)は、ALMAの建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とする。

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