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2017年2月15日 超巨大ブラックホール・ジェットが星の誕生を促す

ケンブリッジ大学のヘレン・ラッセル氏をはじめとする国際研究チームは、アルマ望遠鏡を用いた観測で、ある銀河とその中心に位置する超巨大ブラックホールとの間に予想外のつながりがあることを発見しました。ブラックホールから噴き出す高速のガスジェットが、星の誕生を促進させていたのです。ジェットは星の材料を吹き飛ばして星の誕生を抑制するとこれまでは考えられてきましたが、今回の結果は従来の考え方とまったく逆のはたらきがあることを示しています。

研究チームが観測したのは、ほうおう座の方向に57億光年の距離にある「ほうおう座銀河団」です。この銀河団の中心にある銀河には超巨大ブラックホールがあり、周囲からガスを吸い込んでいる一方、その一部を高速の双極ジェットとして銀河間空間に噴き出しています。このように非常に活発な活動を示す天体を、「活動銀河核」と呼びます。

アメリカ航空宇宙局(NASA)のチャンドラX線宇宙望遠鏡を用いたこれまでの観測から、この双極ジェットは銀河の両側に巨大な「泡」を作りだしていることが明らかになっていました。この「泡」は、非常に高温で希薄なプラズマガスからなっており、銀河を取り巻いています。この「泡」はあまりに高温であるため、ガスが冷えて収縮するという星の誕生に必須の過程をたどることはできないだろうとこれまでは考えられてきました。

しかしながら、アルマ望遠鏡による観測では、この「泡」の側面に沿って低温の分子ガスが細長く分布していることが明らかになりました。この低温ガスは、活動銀河核の両側に8万2000光年もの長さにわたって存在しており、その総質量は太陽100億個分にも相当します。この低温ガスは、「泡」によって銀河中心部から持ち上げられたものか、あるいは「泡」の表面で作られたものと考えられます。


【画像1】 図1.ほうおう座銀河団の疑似カラー画像。青色はチャンドラX線宇宙望遠鏡が撮影した高温のガスの分布を表しており、中央の銀河の上下に「泡」のような構造が見えます。アルマ望遠鏡による観測(オレンジ)では、銀河の方向と、「泡」の側面に沿った場所に細長く伸びた低温ガスの分布が明らかにありました。背景はハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像です。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) H. Russell, et al.; NASA/ESA Hubble; NASA/CXC/MIT/M. McDonald et al.; B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

「超巨大ブラックホールによって作られた泡状構造と、銀河の成長に欠かせない星の材料の関係が、アルマ望遠鏡による観測で初めて直接明らかになりました。」と、ラッセル氏は語ります。「ブラックホールが今後の星形成活動をどのように制御するのか、またブラックホールの活動の源となる物質を銀河がどのように獲得するのかという2点に、今回の研究は新しい視点を提供するものになりました」。

研究チームの一員であるマイケル・マクドナルド氏(マサチューセッツ工科大学)は、「強力なジェットを作りだすために、ブラックホールは星の材料であるガスを消費しなくてはいけません。そうすると星の誕生現場はかき乱され、星の誕生は止まってしまいます。これが従来考えられていた、ブラックホールとその母銀河の関係です。」と解説します。

理論的には、もし中心に熱源がなければ、巨大な銀河は猛烈な勢いで星を生み出すはずですが、観測ではそのような銀河はあまり見つかっていません。実際には、活動銀河核が放つジェットや光が熱源となって、星の誕生を妨げているのだと研究者たちは考えていました。

「だからこそ、今回の発見にはとても驚きました。」と、共同研究者であるブライアン・マクナマラ氏(カナダ・ウォータールー大学)は語ります。「今回観測した超巨大ブラックホールは確かにガスを噴き上げて泡状構造を作りだし、周囲のガスを加熱しています。しかし同時に、十分なガスを冷やしてもいたのです。」

ラッセル氏は、今回の成果の意義を次のようにまとめています。「超巨大ブラックホールが、どのように爆発的星形成の暴走を抑えながら同時に母銀河の成長をコントロールしてきたのか、その疑問に答える成果ともいえるでしょう。」

この観測成果は、H. R. Russell et al. "ALMA Observations of Massive Molecular Gas Filaments Encasing Radio Bubbles in the Phoenix Cluster"として、米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。

【画像2】 ほうおう座銀河団の中心にある銀河の想像図。銀河の中心にある超巨大ブラックホールから上下に強力なジェットが噴き出しており、それが高温ガスの「泡」を作りだしています(青色)。アルマ望遠鏡では、この泡状構造のふちに沿って低温ガスが分布していることを明らかにしました(オレンジ)。この低温ガスはやがて銀河に落下し、星の材料になるとともに超巨大ブラックホールのエネルギー源となります。
Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

超巨大ブラックホール・ジェットが星の誕生を促す

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