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2014年9月10日 重力レンズを使って遠方の衝突銀河を詳細観測

アルマ望遠鏡とさまざまな地上望遠鏡・宇宙望遠鏡を使って、宇宙が現在の半分の年齢だった時に起きた銀河の衝突がこれまでになくはっきりと写しだされました。手前の銀河による重力レンズ効果を使うことで、この衝突銀河H-ATLAS J142935.3-002836が、有名な近傍の衝突銀河である触角銀河によく似ていることがわかったのです。

レンズを使って見えにくい『証拠』を見つけるやり方は、小説『シャーロック・ホームズ』でもおなじみのもの。天文学者は、数多くの望遠鏡(注[1])に加えて重力レンズを使うことで、初期宇宙の活発な星形成を研究することが可能になりました。

「多くの場合、観測能力は天文学者が使う望遠鏡の性能で制限されてしまいますが、運が良ければ天然のレンズを使ってその能力を飛躍的に向上させることができます。」と、この研究論文の筆頭著者であるヒューゴ・メシアス氏(チリ・コンセプシオン大学/ポルトガル・リスボン大学)は語ります。「この天然のレンズはアインシュタインが一般相対性理論で予言したもので、非常に大きな重力源があると光さえも曲がってしまうため、レンズと同じはたらきが自然界で実現されてしまうのです。」

銀河や銀河団のような巨大な構造の巨大な重力によって、その背後からやってくる光の進行方向が曲げられます。これを「重力レンズ」と呼びます。この天然のレンズによって背後の天体が拡大されるため、遠くの天体(宇宙が若かったころに存在する天体)を天文学者は詳しく調べることができるのです。

映像1. 手前の円盤銀河の重力レンズ効果により、奥の衝突銀河の姿がゆがむ様子を模式的に示した映像。この映像は観測者の位置によって重力レンズ像がどのように変わるかを示しています。奥の銀河と手前の銀河、そして観測者が一直線に並んだ時、手前の銀河を取り囲むように奥の銀河の像がリングを作ります。

しかし、重力レンズ効果を利用するには、対象となる遠方の天体と手前のレンズ天体と観測者が一直線に並んでいないといけません。

「偶然3者が一直線に並ぶ確率は、ひじょうに低いものです。」とメシアス氏は言います。「しかし、遠赤外線や電波の観測では、こうした重力レンズ天体がたくさん見つかっています。」

H-ATLAS J142935.3-002836 (あるいは単にH1429-0028)は、ハーシェル赤外線宇宙望遠鏡による大規模観測計画H-ATLAS(Herschel Astrophysical Terahertz Large Area Survey)によって発見された、重力レンズ効果を受けた天体です。可視光では非常に暗い天体ですが、遠赤外線ではこれまで発見された中で最も明るい重力レンズ天体の一つです。しかも、この天体は宇宙の年齢が現在の半分だった頃に存在しているのです。

国際研究チームは、地上あるいは宇宙にある最高性能の望遠鏡群(ハッブル宇宙望遠鏡、アルマ望遠鏡、ケック天文台、カール・ジャンスキーVLA等)を使ってこの天体を詳しく観測しました。異なる波長の観測により異なる姿が捉えられるため、データを比較することでこの天体の本質に迫れるのです。

ハッブル宇宙望遠鏡とケック天文台で得られた画像には、手前の銀河のまわりにリング状に広がる天体の姿が写っていました。奥の銀河からやってくる光が重力レンズによって曲げられたために、こうした歪んだ姿を見せているのです。しかも、重力レンズの原因となっている手前の銀河は、真横を向いた円盤銀河であることがわかりました。この円盤銀河に含まれる大量の塵によって、奥の銀河の光がさえぎられてしまっています。

しかしこうした塵は、アルマ望遠鏡やジャンスキーVLAにとっては邪魔者ではありません。塵の影響を受けにくい、より長い波長の電波を観測できるからです。これらの望遠鏡のデータを合わせた結果、奥に見えている天体はまさに衝突しつつある2つの銀河であることが分かったのです。こうなると、アルマ望遠鏡の役目はさらに重要になります。

アルマ望遠鏡では、星の材料(ガス)に含まれる一酸化炭素分子が放つ電波を観測できるため、銀河の星形成メカニズムに迫ることができるのです。アルマ望遠鏡による観測では、こうしたガスの動きも測ることができます。これにより、奥に見えている天体が年間数百個もの星を作り出していることがわかりました。また衝突しあっているふたつの銀河のうちのひとつでは、ガスが回転していることがわかりました。これは、この銀河が衝突前には私たちの住む天の川銀河のような円盤銀河であったことを示すものです。

まさに衝突しつつある銀河というのは、例えば私たちから7000万光年のところにある触角銀河のようなものです(参考:アルマ望遠鏡試験観測で得られた触角銀河の画像)。触角銀河は、円盤構造を持つ銀河どうしがまさに衝突しつつある姿です。触角銀河では毎年太陽数十個分の星しか作られていませんが、H1429-0028では毎年太陽400個分に相当するガスが星になっているという、極めて活発な星形成が起きています。

共同研究者であり欧州南天天文台(ESO)の科学部門長であるロブ・アイビソン氏は「アルマ望遠鏡でガスの速度が測定できたことで、銀河衝突のようすを詳しく調べることができました。爆発的な星形成が起きているまさにその現場を、はっきりととらえることができたのです。」と語っています。


この研究は、H. Messias et al. "Herschel-ATLAS and ALMA HATLAS J142935.3-002836, a lensed major merger at redshift 1.027"として、天文学専門誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジクス」2014年8月26日号に掲載されました。

[1] 今回の研究に使われた望遠鏡は、アルマ望遠鏡、APEX望遠鏡、VISTA望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、ジェミニ南望遠鏡、ケックII望遠鏡、スピッツァー赤外線宇宙望遠鏡、ジャンスキーVLA、CARMA、IRAM、スローン・デジタル・スカイサーベイ、WISE赤外線宇宙望遠鏡です。

下の画像は、アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡、ケックII望遠鏡で撮影されたH1429-0028です。アルマ望遠鏡で得られた画像を赤色で合成しています。真横から見た円盤銀河(円盤は右上から左下にのびている)が見えており、その周りに重力レンズによって形がゆがめられた遠方の衝突銀河がリング状に見えています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA/W. M. Keck Observatory

重力レンズを使って遠方の衝突銀河を詳細観測

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