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アルマ通信

2017年4月05日 特集・ブラックホール撮影に挑む
第1回 地球サイズの巨大望遠鏡プロジェクト:EHTとGMVA

私たちが住む天の川銀河の中心には、太陽のおよそ400万倍の質量を持った超巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」があります。ブラックホールは非常に質量が大きく重力が強いため、光ですら抜け出すことができません。このため、ブラックホールそのものを見ることは原理的にできないのです。では、なぜブラックホールがあると分かるのでしょうか? 手がかりになるのは、周囲を回る星やガスの動きです。その動きを説明するには非常に強い重力を及ぼす天体がなくてはいけない、つまりそこにはブラックホールがあるのだろう、という推測です。しかし、直接ブラックホールを見たわけではありません。

アルマ望遠鏡をはじめとした多数の望遠鏡が協力することによって、より直接的に、「ブラックホールの影」を撮影するプロジェクトが進んでいます。まだだれも成功したことのない、まさに「不可能への挑戦」です。

これに挑むのは、2つのプロジェクトです。ひとつは、Event Horizon Telescope (EHT) 。"Event Horizon"とは、「事象の地平線」と訳されるもので、それより内側からは光さえも抜け出せない境界線、つまりブラックホールの表面といえます。「ブラックホール表面を撮影するための望遠鏡」というプロジェクト名というわけです。

もうひとつは、Global mm-VLBI Array (GMVA) と呼ばれるプロジェクトです。"mm"とは、波長が数ミリメートルの「ミリ波」と呼ばれる電波を観測することを表しています。"VLBI"は、遠く離れた場所にある電波望遠鏡をつないで一つの仮想的な望遠鏡とする「超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometer)」という技術を指しています。世界中(Global)に散らばったアンテナをVLBIの手法で結合し、ミリ波を観測する望遠鏡群(Array)ということになります。

望遠鏡は、大きくすればするほど解像度(視力)が向上します。アルマ望遠鏡は、直径16kmの範囲にアンテナを展開することで、視力6000を実現します。もっと解像度を上げるためには、アンテナの展開範囲をさらに広くすればよい、ということになります。EHTではハワイ・フランス・南極点で囲まれる範囲、GMVAではドイツ・アメリカ・チリで囲まれる範囲にある電波望遠鏡群をつなぎあわせ、一斉に対象の天体を観測することによって、地球サイズの巨大電波望遠鏡を実現するのです。これにより、ハッブル宇宙望遠鏡の2000倍もの解像度を得ることができます。

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図1. EHT/GMVAに参加する電波望遠鏡の分布。緑色の線で結んだのがEHTに参加する望遠鏡、黄色の線で結んだのがGMVAに参加する望遠鏡です。 Credit: ESO/O. Furtak

プロジェクト 参加望遠鏡
EHT アルマ望遠鏡、APEX(チリ)、JCMT、SMA(米国ハワイ)、ARO/SMT(米国アリゾナ)、LMT(メキシコ)、IRAM 30m(スペイン)、NOEMA(フランス)、SPT(南極)
GMVA アルマ望遠鏡、VLBA(米国の8カ所)、GBT 100m(米国ウェストバージニア)、IRAM 30m(スペイン)、OAN 40m(スペイン)、マックスプランク電波天文学研究所100m(ドイツ)

これほど巨大な望遠鏡を構築しなければ、いて座A*の影を見ることはできないと想定されています。いて座A*は太陽の約400万倍の質量を持っていますが、その直径は太陽の17倍しかありません。相対性理論で予言される効果によって、ブラックホールの「影」はこの数倍の大きさに見えるとされてはいますが、いて座A*は地球から26,000光年も離れたところにあるため、その姿を撮影するには極めて高い解像度が必要なのです。

巨大な電波望遠鏡ネットワークによってブラックホールの影を撮影する構想は何年も前からありましたが、技術の発展によってようやく実現の見込みが出てきました。さらに、感度が非常に高いアルマ望遠鏡が参加できることが、このプロジェクトの成否のカギとなります。

アルマ望遠鏡は、それ自身が66台のパラボラアンテナを結合させた電波干渉計です。たくさんのアンテナを使うことで電波をたくさん集めることができるため、アルマ望遠鏡がEHT/GMVAに参加することによって、全体の感度をおよそ10倍高めることができます。非常に精密な時刻信号を生成する原子時計や、膨大なデータを蓄積することのできるデータ記録装置などが開発され、アルマ望遠鏡に持ち込まれたことで、アルマ望遠鏡が巨大な電波望遠鏡ネットワークの一員となることができたのです。

この観測では、すべての望遠鏡が同時に対象天体を観測しなければいけないため、チリから見て地球の反対側に位置する日本の電波望遠鏡は残念ながら参加しません。しかし、日本の研究者も数多く参加しています。

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図2. チリ北部・標高5000mのアタカマ高地で観測を行うアルマ望遠鏡。 Credit: ESO/B. Tafreshi (twanight.org)

アルマ望遠鏡を含むEHT/GMVAが観測を開始するのは、2017年4月です。GMVAの観測が 4月1日~4日、次にEHTの観測が4月5日~14日に予定されています(時刻はいずれも世界時)。今回の観測では、GMVAはいて座A*へのガスの降着と噴出の様子を詳細に描き出すことを、EHTはブラックホールの影を初めて撮影することを目指しています。

この観測で得られるデータは膨大なものになります。世界中に散らばったアンテナで取られたデータをすべて処理し、組み合わせて画像を得るまでの過程には、いくつかの困難も予想されています。画像が公開されるまでには、数か月以上かかるでしょう。

この観測は、単にブラックホールの影を初めて捉えるというだけでなく、さまざまな意義を持つため、世界中の研究者がその結果を待ち望んでいます。ブラックホールがまわりの物質をどのように吸い込んでいるか、ブラックホールから放出される高速のガス流(ジェット)がどのように作られているのかなど、ブラックホールの性質に迫る成果が期待されます。さらに究極的には、ブラックホールの影の存在を予測したアインシュタインの一般相対性理論の検証にもつながるかもしれません。

今回の観測は、人類が初めてチャレンジするプロジェクトであり、成功が保証されているわけではありません。観測時の各アンテナ所在地での天候や各アンテナの特性のばらつきなど、正確な画像を得るまでに立ちはだかるハードルは少なくありません。もちろん、真のブラックホールの姿はだれも見たことがありません。それでも、データの較正方法を工夫したり、さまざまなシミュレーションを地道に積み重ねたりすることで、これらの困難を克服するための努力が続けられています。最先端を切り開く科学の姿に、ぜひご注目ください。

この記事は、ブラックホール撮影に挑むプロジェクトについて紹介する連載の第1回となります。今後は、ブラックホールそのものの謎に満ちた性質やブラックホールの「影」、電波望遠鏡ネットワークの仕組み、ブラックホールの画像を得るためのハードルなどについても解説していく予定です。


図3. ブラックホールの「影」のシミュレーション画像。ブラックホールを取り巻く高温ガス円盤が電波を出しており、その真ん中にブラックホールがあると考えられます。もっとも単純なブラックホールモデルでは影は円形に近い形をしています(中央)が、もし性質が異なるブラックホールであった場合は、影が楕円形にゆがんで見える可能性があります(右と左)。将来的には、影の形の違いを見分けられる観測も可能になると考えられています。
Credit: D. Psaltis and A. Broderick

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